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大阪大学 集中講義「吸収状態をめぐる非平衡臨界現象の物理学」

集中講義日時

6/14(水) 13:30 から (午後2コマ)
6/15(木) 10:30 から (午前1コマ、午後2コマ)
6/16(金) 10:30 から (午前1コマ、午後1コマ)+ 公開セミナー

場所

大阪大学 豊中キャンパス 理学部 D401号室
キャンパスマップ(右下の5番マーク)

講義の目的と概要

吸収状態、すなわち一度入ったら二度と出て来られない状態への相転移は、非平衡系固有の相転移として最も理解が進んでおり、様々な普遍的臨界現象が知られているほか、近年は実験的進展も著しい。本講義では、最も基本的な directed percolation クラスを中心に、関連するいくつかの普遍クラスも含めて、吸収状態転移の基礎的理論を学習する。また、液晶実験による検証や、流体の乱流転移に関する最近の実験、懸濁液の可逆不可逆転移との関係など、最近の進展も詳しく紹介する。

学部レベルの統計力学の知識は前提とする(カノニカル分布、Isingモデル、平均場近似)。流体力学の知識もあると役立つが、前提とはしない。

学習目標

講義は、平衡系の相転移の復習をした後で、非平衡系の相転移とは何かを議論するところから始める。その具体例として吸収状態転移に注目し、いくつか単純なモデルを通して、その臨界現象の様相、臨界指数の定義やスケーリング関係式などを理解する。特に、directed percolation (DP) クラスの臨界現象については、連続体記述や場の理論の基礎的事項も含めて丁寧に学習する。また、Ising的な対称性が付加されることにより現れる voter クラスや、保存則が関わることで出現する保存場DPクラスについても、代表的なモデルや連続体方程式などを理解し、吸収状態転移に関する広い視野の獲得を目指す。

講義では、関連する実験的進展についても詳細な解説がされる。吸収状態転移に関する様々な実験研究の現状や、液晶系を用いた実験検証の内容を理解し、DPクラスが実験系で現れるための条件について感覚を養う。また、流体の乱流転移や、溶液中粒子の可逆運動・不可逆運動の間の相転移といった近年の進展について、それがなぜ吸収状態転移と関わるのかを理解し、今後の課題について議論する。

授業計画

1. プロローグ(平衡)
1.1. 平衡系の臨界現象
1.2. なぜ普遍的か?
1.3. 連続体記述
 
2. プロローグ(非平衡)
2.1. 非平衡相転移?
2.2. 連続体記述
 
3. 吸収状態転移の基礎
3.1. モデル
3.2. DP予想
3.3. DP臨界現象
3.4. Rapidity反転対称性
3.5. DP平均場理論
3.6. DP連続体方程式
3.7. 経路積分表示
3.8. 実験はどうか?
3.9. 液晶乱流実験
 
4. 吸収状態転移+対称性
4.1. モデル
4.2. 一般化voterクラス
4.3. 連続体記述(Z2対称性の場合)
4.4. 実験
 
5. 吸収状態転移+保存則
5.1. Manna砂山モデル
5.2. 反応拡散型モデル
5.3. 連続体記述
 
6. 乱流転移とDP
6.1. 層流と安定性
6.2. 乱流への道すじ
6.3. 平行流の乱流転移をめぐって
6.4. 実験検証
 
7. 可逆不可逆転移
7.1. Stokes流の可逆性
7.2. Pineらの実験
7.3. Corteらのモデルと保存場DP
7.4. 棒状粒子の場合
7.5. その他の系
 
セミナー:「非平衡ゆらぎのKPZ普遍クラス -厳密解から実験へ、実験から厳密解へ-」
 
※進行状況により一部割愛の可能性あり。

セミナー:「非平衡ゆらぎのKPZ普遍クラス -厳密解から実験へ、実験から厳密解へ-」

日時:6/16(金) 16:30-
場所:大阪大学サイバーメディアセンター 7F 会議室(マップ

スケール不変な数々の非平衡ゆらぎを記述する普遍クラスとしてKardar-Parisi-Zhang(KPZ)クラスが知られている。KPZクラスは、1次元系で厳密解が得られたのをきっかけに急激に理解が進展し[1]、Isingに比肩する重要性をもつ非平衡クラスと言われることもある。そこで本セミナーでは、講演者による液晶乱流の成長界面ゆらぎの実験結果[2]を軸に、1次元KPZクラスについて知られている主要な結果のレビューを行う。特に、厳密解で知られている知見がいかに実験に現れるか、その相互関係を強調する。また、理論的に未知の実験結果が数理的進展に繋がった例として、時間相関に関する最近の結果[3]を紹介する。

[1] 以下のようなレビューがある:T. Kriecherbauer and J. Krug, J. Phys. A 43, 403001 (2010); I. Corwin, Rand. Mat. Theor. Appl. 1, 1130001 (2012); T. Halpin-Healy and K. A. Takeuchi, J. Stat. Phys. 160, 794 (2015).
[2] K. A. Takeuchi and M. Sano, Phys. Rev. Lett. 104, 230601 (2010); J. Stat. Phys. 147, 853 (2012).
[3] J. De Nardis, P. Le Doussal, and K. A. Takeuchi, Phys. Rev. Lett. 118, 125701 (2017).

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