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千葉大学 集中講義「非平衡の普遍的スケーリング則 ~ トイモデルから自然現象まで ~」

集中講義日時

2/20(月) 9:30 から (談話会 16:00 から)
2/21(火) 9:30 から
2/22(水) 9:30 から

場所

千葉大学 西千葉キャンパス 理学部1号館2階121号室(変更の可能性あり)
キャンパスマップ(理学部(緑色)の建物1)

講義概要

熱力学的な相の間の2次相転移では、一般に様々なスケーリング則からなる臨界現象がみられ、普遍性を示すことが知られている。特に臨界指数は、例えば気液臨界状態での実験とイジングモデルで同じ値が見られ、イジング普遍クラスと呼ばれている。両者が全く違う系であることを思えば、これは本来驚くべきことだが、平衡系の臨界現象に対しては、くりこみ群や共形場理論などにより深い理解が得られている。

では、熱平衡から遠く離れた非平衡系に、このような普遍的スケーリング則はどのくらいあるのだろう?くりこみ群の精神に則ると、非平衡でも普遍性が素朴に期待できる…が、カノニカル分布のような確たる出発点がない以上、「素朴に期待できる」以上のことを断言するのはなかなか難しい。それでも、様々な非平衡トイモデルの研究により、少なくとも「吸収状態転移」と「界面成長」という非平衡現象は、普遍的なスケーリング則と普遍クラスによって明確に整理できることがわかり、理論的体系の完成度も高い。特に近年は実験研究も進展が大きく、トイモデルを超えて、実在の自然現象でも普遍的スケーリング則が確認されるようになった。

本集中講義では、吸収状態転移と界面成長の両トピックについて、モデルの導入や基礎的事項の解説からはじめ、最近の色々な実験的進展を紹介、展望について議論をする。具体的には、吸収状態転移については directed percolation クラスを中心に解説し、シア下の層流乱流転移に関する最近の実験や、コロイド等の可逆不可逆転移の実験との関係も紹介する。界面成長については Kardar-Parisi-Zhang クラスに特に注目し、最近の厳密解による主要な結果を説明したうえで、液晶乱流実験やその他の実験系での検証状況について紹介する。

講義対象

学部3年生、4年生(大学院生・研究者も歓迎)
学部3年レベルの統計力学の知識は前提とする(カノニカル分布、イジングモデル、平均場近似)。 流体力学の知識もあると役立つが、知らなくても理解できるよう配慮する。

授業計画

1. プロローグ(平衡)
1.1. 平衡系の臨界現象
1.2. なぜ普遍的か?
1.3. 連続体記述
 
2. プロローグ(非平衡)
2.1. 非平衡相転移?
2.2. 連続体記述
 
3. 吸収状態転移の基礎
3.1. モデル
3.2. DP予想
3.3. DP臨界現象
3.4. Rapidity反転対称性
3.5. DP平均場理論
3.6. DP連続体方程式
3.7. 実験はどうか?
3.8. 液晶乱流実験
 
談話会:「渦糸乱流の相転移と普遍性 ~ 液晶からBEC・超流動へ ~」
 
4. 乱流転移とDP
4.1. 層流と安定性
4.2. 乱流への道すじ
4.3. 平行流の乱流転移をめぐって
4.4. 実験検証
 
5. 可逆不可逆転移
5.1. Stokes流の可逆性
5.2. Pineらの実験
5.3. Corteらのモデルと保存場DP
5.4. 棒状粒子の場合
5.5. その他の系
 
6. 界面成長概論
6.1. 実例と分類
6.2. スケーリング指数の定義
6.3. 連続体方程式と普遍クラス
 
7. KPZ方程式の基礎
7.1. noisy Burgers方程式との関係
7.2. 1次元定常状態
7.3. EW-KPZクロスオーバー
7.4. KPZ方程式のwell-definedness
 
8. 1次元KPZクラスの進展
8.1. PNGモデル
8.2. PNG円形界面
8.3. ランダム行列とTracy-Widom分布
8.4. PNG平面界面
8.5. PNG定常界面
8.6. 液晶乱流界面成長
8.7. 他の実験系
8.8. 展望
 
※進行状況により一部割愛の可能性あり。

談話会 「渦糸乱流の相転移と普遍性 ~ 液晶からBEC・超流動へ ~」

日時:2/20(月) 16:00-17:30
場所:千葉大学 西千葉キャンパス 理学部1号館2階121号室(変更の可能性あり)

線状のトポロジカル欠陥としての渦糸は、超流動や超伝導などの巨視的量子現象から、液晶、宇宙ひもなど、物理学の様々な分野で顔を出す。これらは単に似ているだけでなく、主にトポロジカルな性質を通じ、共通する物理も多い。これはつまり、1つの系で調べた物理が、他の系に対してもある程度の知見を与えられるということである。 そこで本談話会では、まず光学的な観察に適した液晶系で見られる渦糸(線欠陥)に注目し、観察手法や渦糸の作り方などを紹介する。さらに、電圧印加により渦糸からなる乱流状態を実現し、そこで見られる非平衡相転移の臨界現象を測定した結果を示す。これは、(集中講義でも取り扱う)directed percolation (DP) クラスという非平衡普遍クラスに属することが講演者らの実験でわかっている[1,2]。

では、この結果は液晶の渦糸乱流転移に特有のものだろうか?渦糸が示す乱流状態として近年注目されているのが、超流動ヘリウムや冷却原子気体で見られる量子渦乱流である。そこで我々は冷却原子気体を記述する Gross-Pitaevskii 方程式の数値計算を行い、渦糸乱流転移を調べたところ、ここでもDPクラスの臨界現象が出現することが判明した[3]。談話会では、実験検証の可能性なども含め、簡単に紹介したい。

参考文献
[1] 竹内一将, 日本物理学会誌 70, 599(2015年8月号).
[2] K. A. Takeuchi et al., Phys. Rev. Lett. 99, 234503 (2007).
[3] M. Takahashi, M. Kobayashi, and K. A. Takeuchi, arXiv:1609.01561.

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