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バクテリアコロニーの三次元的成長とトポロジカル欠陥

運動する細胞集団におけるトポロジカル欠陥とその役割

図1: $\pm 1/2$トポロジカル欠陥。棒は分子(細胞)の向きを表す。

細胞が集団や組織となり構造を生み出す際、生物種によらない普遍的な法則は存在するでしょうか。近年、我々動物を構成する真核細胞から、バクテリアのような原核細胞に至るまで、物理学的観点からみた集団構造形成に関する普遍法則の探求が進んでいます。特に、多くの細胞の形状は液晶の分子のように異方性を持つため、液晶のダイナミクスを応用した研究が盛んに行われています。中でも、通常の液晶系でも特異な振舞いが見られる、局所的に細胞の向きが不揃いになる特異点「トポロジカル欠陥(図1)」が、多くの生物種の、特に自発的に運動する細胞集団で共通した性質を示すことが知られています。具体的には、$+1/2$と定義される形状の欠陥上に細胞が集積し、組織の三次元的な突出を駆動する一方、$-1/2$と定義される形状の欠陥からは細胞が流出して密度が低下する振舞いが報告されています[A]。

上記の性質は、自発的に遊走するバクテリア集団においても報告されています[B]。しかし、多くのバクテリア種や他の生物種の細胞には運動能を持たないものも多く、そうした系におけるトポロジカル欠陥が持つ性質は調査が進んでいませんでした。この問題を解決することは、バイオフィルムのような高度に組織化したバクテリア集団や、ひいては我々動物の組織の形状形成メカニズムに潜む普遍法則の解明につながる可能性があります。

細胞成長により駆動される大腸菌集団におけるトポロジカル欠陥の効果

図2: 成長する大腸菌コロニー中のトポロジカル欠陥[1]。
図3: 欠陥周辺の速度場(矢印)とそのDivergence(疑似カラー)[1]。青い場所(負の発散)で細胞の流入、つまりコロニーの三次元的成長が駆動される。(a)$+1/2$欠陥周辺の結果。(b)$-1/2$欠陥周辺の結果。

大腸菌のようなバクテリア細胞がバイオフィルムを構築する際、その初期過程では細胞増殖を介して二次元的なコロニーを形成します。しかし、時間が経つと、次第に二次元コロニーから細胞が三次元空間へと押し出され、最終的には複雑な空間構造を有した三次元的組織が形成されます。この三次元的成長の駆動メカニズムに関する研究は幅広く行われてきましたが[C]、細胞の配向状態がどの様に影響するのかは未解明でした。

私達は、寒天培地とカバーガラスに挟まれた空間中で大腸菌集団のコロニー成長過程を観察し、トポロジカル欠陥による三次元構造形成への影響を調査しました[1]。まず、三次元構造を形成したコロニーの立体構造を共焦点顕微鏡により観察したところ、コロニー底面において多くのトポロジカル欠陥が形成されていることを確認しました(図2)。さらに、これら$\pm1/2$トポロジカル欠陥が存在する場所では、他の場所よりも有意にコロニーの高さが高くなっていることを発見しました。

私達はさらに、コロニー底面のトポロジカル欠陥周辺の速度場を解析することで、細胞が$\pm1/2$両方の欠陥に流入していることを確認(図3)し、これが三次元的成長を駆動していることを見出しました。この結果は、$+1/2$欠陥にのみ細胞が集積するという従来の知見に反します。私達は更なる解析と理論的考察を通じて、この原因の解明を試みました。すると、トポロジカル欠陥周辺で細胞がより強く三次元的に傾いており、またその傾きが欠陥から見て決まった方向に向く「極性秩序(図4a)」の創発を発見し、それが従来の知見と反する「$-1/2$欠陥への細胞流入」を駆動(図4b)していることを明らかにしました。

図4: 極性秩序の創発と、それに伴う駆動力[1]。(a)細胞が三次元的に傾いた方向($n_\mathrm{p}$)に、傾き角$\theta_\mathrm{p}\ll \pi/2$に比例する駆動力が働く。欠陥から見て動径方向に沿った駆動力は$f_{\mathrm{p},r}\propto \theta_\mathrm{p} \cos \phi$により評価できる。(b)$-1/2$欠陥周辺の$f_{\mathrm{p},r}$。欠陥に向かって極性秩序由来の駆動力($f_{\mathrm{p},r}<0$)が働いている事がわかる。

参考文献

(当研究室)
[1] T. Shimaya and K. A. Takeuchi, PNAS Nexus 1, pgac269 (2022) [web]; プレスリリース「トポロジカルな点が、細菌を引き寄せ、コロニーの3次元成長を促進する」[link].

(他グループ)
[A] 主に真核細胞集団のレビュー: T. B. Saw, W. Xi, B. Ladoux, C. T. Lim, Adv. Mater. 30, 1802579 (2018) [web]; 主に細菌集団のレビュー: A. Sengupta, Front. Phys. 8, 184 (2020) [web]
[B] K. Copenhagen, R. Alert, N. S. Wingreen, and J. W. Shaevitz, Nat. Phys. 17, 211 (2021) [web]
[C] P. Su, C. Liao, J. Roan, S. Wang, A. Chiou, and W. Syu, PLoS ONE 7, e48098 (2021) [web]; M. A. A. Grant, B. Wac law, R. J. Allen, and P. Cicuta, J. R. Soc. Interface 11, 20140400 (2014) [web]; F. Beroz, J. Yan, Y. Meir, B. Sabass, H. A. Stone, B. L. Bassler, Nat. Phys. 14, 954 (2018) [web]; Z. You, D. J. G. Pearce, A. Sengupta, and L. Giomi, Phys. Rev. Lett. 123, 178001 (2019) [web] 等

主に関わっているメンバー

嶋屋 拓朗、竹内 一将

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