自己駆動コロイド粒子の集団運動
人工粒子を用いたアクティブマターの性質の探求
動き回る人工的な物体の集団にも、生き物の群れと共通する普遍法則が現れるのでしょうか? このような問題意識のもと、アクティブマターの物理学は、生き物だけでなく、無生物も興味の対象としてきました。人工的なアクティブマターは、これまで様々な実験系が考案されてきましたが、我々はコロイド粒子系を用いて実験をおこなっています[A]。これは、顕微鏡下で多数の粒子を精度よく制御できるため、実験統計力学の題材として適しているためです。
交流電場をエネルギー源とする非対称なコロイド粒子(ヤヌス粒子)
我々は、シリカなど誘電体でできた直径3µm程度のコロイド粒子を、半面だけチタンなどの金属でコートした非対称な粒子を用いています[1]。このような非対称コロイド粒子は、ヤヌス粒子と呼ばれています。このヤヌス粒子を水中に分散させ、透明電極2枚で挟み込みz軸方向に電場を加えると、ヤヌス粒子自身の非対称性に由来して、粒子の周囲に非対称な水流が誘起されます。この非対称流の結果として、ヤヌス粒子がxy平面内をあたかも微生物かのように泳ぎ回ります(ムービー1)。
この交流電場を動力源としたヤヌス粒子は、交流電場の強度によってその遊泳速度を自在に制御でき、また、交流電場の周波数や水中のイオン濃度を変えることで、粒子間相互作用や粒子の遊泳方向を制御することができます。この制御の自由度の高さのため、バクテリアをはじめとする生物や、生体材料の再構成系での実験が困難な集団運動現象に実験的にアプローチすることができます。たとえば、真核生物の鞭毛運動を模した鞭打ち運動をヤヌス粒子の鎖状構造で再現でき、鞭打ちの周波数と、個々の粒子の駆動力のスケーリング則の実証に成功しています[2]。
現在は、このヤヌス粒子をモデル実験系として、様々なマクロ秩序相における密度ゆらぎの異常性や相関関数の普遍スケーリング則など、統計力学的性質を追究しています[3]。
周期的な運動をする自己駆動コロイド粒子
自己駆動粒子のうち、駆動力が時間依存する系も興味を持たれています。我々は、周期的に駆動するコロイド粒子系を作成しその性質を探求しています。電気伝導性を持つ液体中に誘電体コロイド球を分散させ、透明電極で挟んで直流電場を印加すると、電極上を転がり二次元面内を運動します[B]。この粒子は、電気流体効果である「クインケ効果」により回転することで動くので、クインケ粒子と呼ばれています。クインケ粒子の場合、コロイド粒子自体は極性をもたず、粒子周りのイオン分布のもたらす分極によって後天的に運動の極性が決められます。従って、駆動速さだけでなく、駆動方向の反転も伴うような時間依存的な自己駆動をさせるのに適した系と言えます。
我々は、交流電場を印加することで、クインケ粒子に周期的・往復運動的な自己駆動をさせられることを確かめました。さらに、長い時間スケールの非自明な運動が出現することを見出したほか、集団的な振るまいも直流下とは異なることがわかりました(ムービー2)[4]。
参考文献
(当研究室)
[1] D. Nishiguchi and M. Sano, Phys. Rev. E 92, 052309 (2015) [pdf, web].
[2] D. Nishiguchi, J. Iwasawa, H.-R. Jiang and M. Sano, New J. Phys. 20, 015002 (2018) [web].
[3] J. Iwasawa, D. Nishiguchi, and M. Sano, Phys. Rev. Res. 3, 043104 (2021) [web].
[4] A. N. Kato, K. A. Takeuchi, and M. Sano, Soft Matter 18, 5435 (2022) [web].
(他グループ)
[A] 自己駆動コロイド粒子系に関するレビュー: C. Bechinger, R. Di Leonardo, H. Löwen, C. Reichhardt, G. Volpe and G. Volpe, Rev. Mod. Phys. 88, 045006 (2016) [web].
[B] A. Bricard, J. -B. Caussin, N. Desreumaux, O. Dauchot, and D. Bartolo, Nature 503, 95 (2013) [web].
主に関わっているメンバー
西口 大貴、加藤 愛理、竹内 一将